元警察官ケイの警察ブログ

市民側からはわからない警察官の本当の姿を伝えるブログ

連続窃盗犯の犯行の動機で夫婦関係について考えた時

30歳まで真面目な会社員をしてきた男性が突然連続窃盗犯に変わってしまった。

 

夫婦関係がなんでも話せる仲だったら、彼は連続窃盗犯にはならなかったかもしれない。

 

私にとっても夫婦関係のあり方を考えさせられる男の動機でした。

 



ある時期、連続窃盗事件が激増した。

多い時は一週間に数回。それが1か月半続いた。

どれも手口は同じ

多くの刑事課員たちの休日を犠牲にした結果ようやく逮捕した。

 

犯人は男性

犯罪歴なし。

決して素行不良者な人生を歩んできた人間ではない。

そんな彼がなぜ急に連続窃盗犯に急変したのか。

 

取り調べて明らかになったのは、彼の苦しい苦悩だった

 

第一の理由は会社をリストラされ収入が途絶えたことだった。

リストラの理由は彼自身の能力ではなく、不況によるもの。

 

さらに彼を悩ませたが家族の存在だ。

彼には妻とこどもがいた。

彼はリストラされたことを妻に言えなかったらしい。

しかし、収入は途絶えてしまう。

そこで彼は次に仕事が見つかるまでの間、盗んだお金を給料に見せかけて妻に渡すことにした。

会社を解雇された後も「仕事に行ってくる」と変わらない様子で家を出ていた。

しかし行先は会社ではなく、窃盗を繰り返していた。

窃盗の被害金額と、妻に渡していた金額を捜査したところほぼ一致した。

 

妻は夫が逮捕されたことを聞くまでまったく知らなかった。

 

彼を犯罪にまで追いつめた理由はリストラだけではない。

窃盗犯の中にはギャンブルや遊ぶ金欲しさで平気で犯行に及ぶ者もたくさんいる。

そいつらは本当にどうしようもないし、刑務所なんか行ったところでほぼ更生しない。

10件の窃盗事件で刑務所に入り、出所した後に30件の再犯で再び刑務所に戻るやつらを何人も見てきた。

そんなやつらは死ぬまで社会に出すべきではないし、刑務所で更生なんていうのは絵に描いた餅であることが警察官をやればよくわかる。

 

しかし、今回の窃盗犯はそいつらと同じには思えなかった。

窃盗自体はもちろん絶対に許されない。被害者の苦しみや損害は大きい。

不景気、リストラ、家族を守るため、どんな理由であっても許されないのは間違いない。

 

しかし、彼には相当な苦悩があったはずだ。

どうしようか苦悩して苦悩して、他に方法が思いつかず窃盗に至った。

それは事件前までの彼の人生を見ればわかる

遊ぶ金欲しさに窃盗を繰り返すような人間とはちがって、彼には長年築いてきた誇れる人生があった。

しかし、突然のリストラの厳しい現実に襲われた。

それが真っ当な人生を送ってきた彼に、人生に泥を塗る決断をさせてしまった。

しかし、彼を犯行に追いつめた原因はリストラだけではない。

リストラされた人がすべて窃盗を侵すわけではない

彼を追いつめたもう一つの要因。それは妻に真実を言えなかったことだ。

妻に言っていたら犯罪に及ぶことはなかっただろう。

なぜ彼は一番言うべき人に言えなかったのか。

リストラによって収入がなくなる。

彼にとってこれを最も伝えなくてはいけない人は妻だ。

彼も「まず妻に言わなければいけない」とは思ったはずだ

しかし、彼は一番言わなければいけない人に言えなかった。

 

なぜ言えなかったのか。

私はその気持ちが少しわかった。私も悩んで躊躇するだろう。

私以外にも、その気持ちはわかるという人も多いはずだ

 

頭ではわかっているになぜできないのか

 

妻に言えない男の心理。言いやすい妻と言いずらい妻のちがい

男は見栄っ張りだ。女性ほど素直に弱い部分を見せられない

しかしこれは妻がどんな女性かによって大きく違う。

どんなに悪い相談を持って行っても、責めたり突き放したりするのではなく、二人の問題として一緒に悩んでくれる妻であれば男は言いやすい。

妻にだけは言える。そう思える妻であれば「リストラ」という困難な事態を、一人で抱え込もうとは思わない。

 

しかし、この犯人にとって妻はそういう存在ではなかった。

リストラを伝えたら妻からどんなことを言われるか。どんな想定をしていたのか。

「これからどうすんの」「私も子どもも路頭に迷っちゃうじゃない」「早くなんとかしてよ」

こういう言葉を想像していたのだろうか。これでは言いいたくない。

 

「これからどうすんの?」と言う妻か

「これからどうしようか?」と言う妻か

これだけで男は全然ちがう。

 

「これからどうすんの」は事態の解決を、夫にすべて押し付けている

リストラされたのはあなたの責任だから、あなたがなんとかしなさい

責任のない私や子どもに損失が及んでほしくない。

家族の問題ではなく夫の問題としてしまう妻の言い方だ

 

「これからどうしようか?」は全然ちがう

一緒に悩んでくれる妻だ。

日頃からこういう姿勢で聞いてくれる妻であれば、夫は自分の弱い部分も見せやすい。

信頼関係と言えばそうなのだが、プラスもうひとつ何か要素があるように思う。

しかし適切な言葉が見つからない。

「甘えられる存在」ともちがう。

「敬意」かもしれない。

 

犯人の妻がどういう人なのか、どんな夫婦関係だったのかは私は知らない。

しかし、犯人にとって妻はすべてを話せる存在ではなかったということだけは間違いない

この事件で犯人だけに「なぜそんな大切なことを言わないんだ!」と責めることはできない。

言えなかった原因は夫婦双方に問題があったと思う。

 

犯人の妻にとっては、ふたつの意味でショックだったと思う

ひとつは夫が窃盗をしたこと

もうひとつは、自分は夫にとって世界で一番心を許せる存在ではなかったということを突き付けられたことだ。

「なぜ妻である私に言ってくれなかったのか」

これはある意味窃盗事件よりもショックだったかもしれない。

 

「仲のいい夫婦」=「信頼関係のある夫婦」とは限らない

リストラのように苦しい事態に直面した時こそ夫婦の真価が問われる。

楽しいこと、幸せなことを共有することは誰でもできる。

逆ができるかだ

人には言いずらいこと、惨めなこと、つらいこと。

そういったことをどれだけ気軽に共有できるか。

それがその夫婦の真価や絆の強さを表すと思う。

外から見て仲のよさそうな夫婦でも、実は言うべきとが言い合えてないかもしれない。

あの夫婦はいつも仲良さそうなんて言うのは、夫婦関係のことを知らない人だけだ

 信頼関係は一日二日で築けるものではない。

信頼関係は一日二日でできるものではない。毎日の積み重ねだ

敬意のない態度を毎日取り続けていて、誕生日だけに素敵なプレゼントを渡したところで信頼関係のある夫婦にはなれない。

いつも相手の話を真剣に聞いて、真剣に返答しているか

その積み重ねによってのみ、この人にだけは何でも言えると思える関係ができてくる。

一緒にいることが当たり前になってしまうと、どうしても適当で大丈夫だろうと思ってしまう

夫や妻の言っていることを真剣に聞かなかったり、バカにしたり否定したり。

そんなことばかり言う夫・妻には、いくら夫婦でも言いたくなくなってくる

気が付いた時には、リストラされたことさえ相談されない関係になっている。

自分はどうかなのかを考えてみたら

この事件を一緒に捜査した50代のベテラン警部補はこう言っていた。

「夫婦関係ができてないからこういうことになんだよ。奥さんにも責任あるよな」

確かに言ってることはまったく正しい。正論だ。

しかし、私はそれは言えなかった。

というか、正論なんて誰でも言える

有名人の不倫見て「許せない」とか言ってる能天気な人たちと同じだ。

そんなこと誰でも言える。何も意味のないことを言っているのと同じだ。

 

私はこの犯人の動機を知った時、自分はどうだろうと考えた。

「自分は妻と信頼関係が築けているのか??」

「かっこ悪い悩みを言えるか??」

「自分は妻にとって言いやすい夫か??」

 

正論を振りかざす警部補はさぞかし妻との関係に自信があるのだろう。

しかし私はそこまで自信がなかった。

 

実は私は元々他人に心の内を打ち明けるのが得意ではない。

典型的な見栄っ張り男だ。

こういう男を夫にしてしまったらきっと面倒だと思う。

自分でもそう思っている。

思っているなら変わればいいのだが、・・・・。

言いずらいんですよ。

うちもまだまだです。

 

結婚されている方々

妻や夫に悪い相談を躊躇することなくできますか?

妻や夫にとってあなたは言いやすい存在ですか?

あなたの知らないところで追いつめられて窃盗しているなんてことは絶対にありませんか?

 

大切にして信頼されてないと、リストラされたことすら言えなくなってしまうかもしれません